その夜は、ようやく仕事が一段落し、深い眠りにつこうとしていた矢先の出来事でした。寝る前にトイレを済ませ、いつも通りレバーを引いた瞬間、普段とは明らかに異なる「ゴボゴボ」という不気味な音が排水口から響き渡りました。不審に思って便器の中を覗き込むと、流れていくはずの水が激しく逆流し、便器の縁ギリギリまで水位が上がってきたのです。私は一瞬で血の気が引き、パニックに陥りました。ここは築三十年の賃貸アパート、もし水が溢れ出して床を濡らし、下の階に漏水でもさせようものなら、その損害賠償額や謝罪の手間を考えて目の前が真っ暗になりました。慌てて止水栓を閉めようとしましたが、古い水栓は固着しており、素手ではびくともしません。私はキッチンからマイナスドライバーを掴んできて、震える手でなんとか止水栓を回し、さらなる注水を食い止めることができました。しかし、すでに溢れんばかりの状態となった汚水をどうにかしなければなりません。私は深夜の静寂の中で、一人バケツと紙コップを手にし、涙ぐみながら汚水を汲み出すという絶望的な作業を始めました。床にはゴミ袋とタオルを敷き詰め、一滴も外に漏らさないよう細心の注意を払いました。ある程度水位が下がったところで、入居時に渡された二十四時間対応の緊急連絡先に電話をかけました。オペレーターの方の落ち着いた声を聞いた瞬間、張り詰めていた緊張が少しだけ解けました。約一時間後、到着した業者さんが手際よく専門の道具で詰まりを解消してくれましたが、原因は私が「流せる」と信じて使っていた安価なウェットティッシュでした。業者さん曰く、古いアパートの配管は勾配が緩かったり内側が粗かったりするため、流せるタイプのものでも容易に滞留してしまうとのことでした。幸い、今回は緊急サポートの範囲内で修理費は無料でしたが、精神的なダメージは計り知れないものでした。この事件以来、私はトイレに「トイレットペーパー以外流さない」という厳格なルールを自分に課し、止水栓の操作方法を定期的に確認するようにしています。賃貸住宅において、設備を過信することは禁物です。いつ何時、静かな夜が悪夢に変わるか分かりません。日頃から不測の事態に備え、連絡先をすぐに分かる場所に掲示しておくことの重要性を、私はこの身をもって痛感しました。
深夜の賃貸アパートで起きたトイレ噴水の悪夢と教訓